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カルボニル化合物にアミンを導入する新反応 -医薬品合成の最短ルートを拓く- 研究活動 | 研究/産学官連携

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Academic year: 2018

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【研究の背景と内容】

炭素原子(C)、酸素原子(O)、窒素原子(N)がO=CCNと表記される配列 でつながった分子の形をもつ化合物をα-アミノカルボニル化合物(“α”はカルボニル 化合物のどの位置にアミノ基がつながっているかを表す)と呼びます。このユニッ トをもつ化合物は自然界に数多く存在しており、例えば、私達の体の働きを維持す

カルボニル化合物にアミンを導入する新反応

-医薬品合成の最短ルートを拓く-

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)・大学院工学研 究科の大井 貴史(おおい たかし)教授、大松 亨介(おおまつ こうすけ)特任准教 授、安藤 祐一郎(あんどう ゆういちろう)(大学院生)、中島 翼(なかしま つば さ)(大学院生)らの研究グループは、カルボニル化合物にアミンを導入する新し い化学反応を開発することに成功しました。

今回開発した反応を利用することで、キラルなアミノカルボニルと呼ばれる一 連の化合物を、入手容易なカルボニル化合物とヒドロキシルアミンから1工程で 合成できるようになります。

キラルなアミノカルボニル化合物の分子の形は、アミノ酸やタンパク質などの 生命活動に欠かせない化合物や多くの医薬品に共通しています。そのため、本反応 は、医薬品合成の最短ルートを切り拓く方法として今後広く応用されていくこと が見込まれます。

本研究成果は、学術出版社Cell Pressが創刊した「Chem(ケム)」に近く掲載 されるのに先立ち、平成28111012時(米国東部標準時)にオンライン 速報版で公開されました。

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るために不可欠なアミノ酸やタンパク質はアミノカルボニル化合物です。また、ア ミノカルボニルユニットは多くの医薬品にも共通する分子の形です。アミノカルボ ニル化合物は、私達の生命活動を支える最も重要な化合物と言っても過言ではあり ません。

アミノカルボニル化合物の性質(医薬としての効能を含む)は、炭素原子および 窒素原子上の置換基(用語解説参照)によって大きく変化します。また、アミノカ ルボニル化合物の多くは、キラル(用語解説参照)と呼ばれる右手と左手のように 互いに鏡映しの関係にある形をしており、右手型と左手型が生体内で異なる働きを します。そのため、必要な形をもつアミノカルボニル化合物を狙った通りにつくる ための技術開発が、世界中で進められてきました。

カルボニル化合物とアミンを原料として、2つの化合物を狙い通りにつなぐこと ができれば、1工程でキラルなアミノカルボニル化合物が出来上がります。しかも、 カルボニル化合物とアミンは、多くの種類が容易に入手できるため、様々な分子の 形をもつアミノカルボニル化合物を簡単につくり出せるようになり、既存の医薬品 の合成を短工程化するだけでなく、新しい医薬の発見を目指す創薬研究を加速する 技術になります。しかし、アミノカルボニルが出来上がるようにカルボニル化合物 とアミンをつなごうとすると、互いに反発し合う性質を示すため、両者を直接つな ぐ反応は化学的に不可能です。

図1 アミノカルボニル化合物の形

大井教授、大松特任准教授らのグループは、アミンの代わりに窒素原子上にヒド ロキシル基(OH)をもつヒドロキシルアミンを用いることで、カルボニル化合物に アミンを直接導入する方法を開発しました。さらに、研究グループが独自に開発し た触媒を利用することで、キラルなアミノカルボニル化合物の右手型と左手型のう ち、必要な方を狙い通りにつくることに成功しました。

カルボニル化合物とアミンを直接つなぐことが不可能なのは、炭素原子と窒素原 子上の電子が反発し合うためです。この問題は、アミンをヒドロキシルアミンに代 えるだけでは解決できません。研究グループは、ヒドロキシルアミンにトリクロロ アセトニトリルという化合物を反応させることで、窒素原子上の電子の密度が低下

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し、カルボニル化合物との反発が解消されると考えました。実際に、カルボニル化 合物とヒドロキシルアミン、トリクロロアセトニトリルを適切な条件で混合するこ とで、ヒドロキシルアミンのアミン部位が導入されたキラルなアミノカルボニル化 合物が得られました。

図2 今回開発したカルボニル化合物とヒドロキシルアミンを用いた反応

今回開発した反応は、多くの種類のカルボニル化合物とヒドロキシルアミンを原 料として利用できるという点で有用です。例えば、様々な生物活性物質の基本骨格 であるオキシインドールに対して、様々な形をしたアミンを狙った通りに導入する ことができます。カルボニル化合物とヒドロキシルアミンの組み合わせを変えるこ とで、原理的に無数のキラルなアミノカルボニル化合物をつくり出す技術であると 言えます。

NBoc O Ph HN

CO2t-Bu O

NHPh

BocN

NH

CO2t-Bu

Ph NBoc

O NMe

図3 今回の反応で合成したキラルなアミノカルボニル化合物の例(左端がオキシ インドール誘導体)

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【まとめと今後の展望】

今回、大井教授らはカルボニル化合物にアミンを狙い通り導入する反応を実現し ました。この反応は、前例のない化学反応という点で学術的に意義深いだけでなく、 入手容易な原料から医薬資源となるキラルなアミノカルボニル化合物を1工程で供 給する実用性の高い技術です。今後のさらなる改良によって汎用性を拡大すること で、医薬品合成の最短ルートの確立や新薬候補化合物の迅速合成につながると期待 されます。

【掲載雑誌名、論文名、著者】 掲載雑誌:Chem(ケム)

論文名:A Modular Strategy for the Direct Catalytic Asymmetric α- Amination of Carbonyl Compounds(カルボニル化合物の直接的不斉α-アミノ化反 応)

著者:Kohsuke Ohmatsu, Yuichiro Ando, Tsubasa Nakashima, Takashi Ooi(大 松亨介、安藤祐一郎、中島翼、大井貴史)

【用語説明】 置換基:

1原子もしくは複数の原子がつながった分子の部分構造。母体となる分子の水素 原子を置き換えたと考えるため「置換基」と呼ばれる。

キラル:

右手と左手のように鏡に映さないと自らの鏡像と重ね合わすことのできない形をし た化合物をキラルな化合物と呼ぶ。右手型と左手型の化合物は、生体内で異なる 働きをする場合が多い。例えば、アミノ酸の一種であるグルタミン酸は左手型がう ま味を与えるのに対して、右手型は苦味を与える。キラルな化合物のうち一方だけ を選んでつくり出す反応が不斉合成であり、2001年ノーベル化学賞の対象になっ た化学技術である。

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参照

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